ちひろの世界

「ちひろのひきだし~より」

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「わたしのえほん」のなかの一場面です。
後向きで、左手に筆をもち、右手でスケッチブックをかかえてるのが母、
いわさきちひろその人です。
母は左ききでした。
画面の上からのぞいているのは幼かりしころの私の手のようです。

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"風光る”という言葉があります。俳句の春の季語です。
この絵をみて、わたしはこの言葉を思い出しました。
母は大好きな春の光と、やさしい風を描きたかったのでしょう。

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小鳥をみつめる少女

母のアトリエには十数年の間チロという名の犬が住んでいました。
白毛の毛並みは短すぎず艶やかで、耳はピンと立ち、尾はきれいに巻いていました。
ある時、獣医さんがチロをみてこんなことをいいました。
「奥さん、これ、紀州犬で通りますよ、是非そうしちゃいなさいー」
お客さんがいらして、いい犬ですね、などといおうものなら、母はここぞとばかりほほえんで、
「何犬だとお思いになる?-紀州犬」
「ハァ……」(わかっても、わからなくても、お客さんは必ず感心した声を出すようです。
母は再びほほえんで)
「ということにしているんだけど、ホントはね、スピッツなんかわからないのとの雑種なの」
「ええ……」

母に溺愛されたチロ、いささか礼儀知らずの所があって、
お客さんに出されたお菓子は自分にももらえるものと思い込んでしまうのです。
テーブルの横にピタリとお行儀よくすわり、お菓子を見て、それからじっとお客さんの顔見つめるのです。
母に言わせれば、この時の小首をかしげた表情がなんとも聡明そうで、
瞳は黒曜石のように輝いて……ということになるようです。

母の愛を一身に受けていたと信じて疑わなかったチロにも、強力なライバルがいた時期がありました。
「ポッコ、ポッコ……」と呼ぶ母の甘い声にチロは何度憤怒の形相を見せたことでしょう。
ポッコは真白いハトでした。
アトリエの前のベランダを住居として、気ままに生きたハトでした。
かつては、ちゃんとしたハト小屋をつくってもらい、夫も子どもたちもいたのですが、
夫とうまが合わず別れ、子どもたちは伝書バトとしては出来が悪すぎて、家を出たきり戻れなかったのです。

しかしボッコはそんな悲しい過去など、
どこ吹く風というようにベランダの手すりのうえで気品にみちた姿をみせていました。
母の呼ぶ声にクークーとノドをならしてこたえ、手からエサをたべていました。
母は仕事の手をとめて、ふとこの白いハトを見つめていることがありました。
その表情は、きっとこの絵のようだったことでしょう。

そんな時、チロはというと部屋の隅の毛布の上に丸くなって、
チラと外をみてはねむってふりをしていました。


ー母の絵を語る

1983年3月20日 初版発行
絵 いわさきちひろ
文 松本 猛
発行所 株式会社 新日本出版社

時 色 案 内 人 / つ か だ よ し ひ ろ

http://www.ac.auone-net.jp/~tokiiro/

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by tokiiro201 | 2010-05-22 19:48 | 2010年


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